EXPO PLL Talks

EXPO PLLトークス

〈アーカイブ動画公開〉
ウスビ・サコ氏 EXPO PLL Talks
「アート&インパクト:イノベーターと共に考えるアフター万博の世界」vol.08

「Study : 大阪関西国際芸術祭」の総合プロデューサーであり、株式会社アートローグのCEO 鈴木大輔が、アートやクリエイティブのみならず様々なジャンルでご活躍の方々をゲストにお迎えしているExpo PLL Talksシリーズ。今回は公益財団法人2025日本国際博覧会協会 副会長・ウスビ・サコ氏から、多様性から考える「共創社会」の実現についてお話を伺い、2025年の万博以降に目指したい社会や、アートの持つ可能性について考えました。

ウスビ・サコが語る「誤解を超えて共創へ─万博と未来の社会」

1. 日本との関わりや、現在の活動について教えてください。

私は西アフリカのマリ共和国で生まれ育ちました。19歳で中国に渡り、6年間の留学生活を経て、日本に来たのが33年前。以来、京都を拠点に暮らしています。専門は建築学ですが、建物そのものよりも「人と空間」「文化と空間」の関係に興味があり、“空間人類学”という独自の視点で研究を続けてきました。地域社会やコミュニティ、住まいのあり方を文化人類学的な視点から読み解き、どのように空間が人の関係性をつくっているのかを探っています。

現在は日本各地で建築やまちづくり、教育、国際交流など多方面で活動しています。特にここ数年は北海道浦幌町と私の故郷・マリ共和国をつなぐ「ホストタウン事業」に深く関わってきました。浦幌の中学生とマリの子どもたちの交流、地域の祭りや農業を通じた学び合いなど、さまざまなプロジェクトを通して、日本とアフリカの新しい関係づくりに取り組んでいます。国籍や文化の違いを越えて“顔の見える関係”をつくることが、これからの社会に必要な営みだと感じています。

2. 万博を通じて、どのような社会を目指したいと考えていますか?

私が万博で強く意識しているのは、「誤解を解く場」にすることです。たとえばアフリカ料理や文化、日本文化もそうですが、海外ではイメージが先行し、本質が伝わっていないことが多くあります。私はセネガルで「SUSHI TIME」という寿司レストランを見つけたのですが、出てくるのはミルクティーや焼き鳥、餃子、カリフォルニアロールでした。店主はそれを「日本の寿司」だと信じているんです。万博は、そうした“思い込み”や“誤解”をほどいて、本物に触れる機会になります。

また、今回の万博では「共同館」という複数の国が一緒に出展する仕組みがあります。これは管理者を置かず、対話と共創で運営される“コモンズ”の精神に基づいた空間で、私はその名称を提案しました。違う文化・価値観を持つ人たちが半年間、同じ空間で関わり合う中で、自然と摩擦が生まれます。ですが、その“ズレ”こそが共創の起点になる。違いを排除するのではなく、受け入れて調整する力。そうした「関係性を育てる社会」こそ、ポスト万博に必要な価値だと考えています。

3. アフリカとの交流を通じて、日本社会に何を伝えたいですか?

アフリカは今、ものすごい勢いで変化しています。都市部の人口は年率3~6%で増加し、一部の地域では日本の地方都市とまったく逆の現象が起きています。一方、日本の地方では人口減少が深刻で、浦幌町のように高校が閉鎖されるほど若者が減っている地域もあります。私はこうした“人口動態のギャップ”をつなぐことで、新たな可能性が生まれると信じています。

たとえば、農業。日本とアフリカの農業は規模も手法も大きく異なりますが、技術や考え方を交流させることで、互いに学び合える関係がつくれます。私は北海道の農家の方々をマリに連れて行き、現地の農業現場を視察してもらいました。現地ではおばさんたちが1日1トンのサバをさばいている。そのパワーとダイナミズムに日本の人々も驚いていました。

さらに、子どもたちの夢を聞くプロジェクトも行っています。マリの子どもたちは、「畑がほしい」「病院がほしい」「家庭がほしい」と、自分の言葉で夢を語ります。その言葉には、社会の課題や未来の可能性が詰まっています。アフリカとの関わりを通じて、日本ももう一度「自分たちの未来をどう描くか」を問い直す機会になると感じています。

4. 空間人類学の研究者として、日本やアフリカの「暮らしの空間」にどのような魅力を感じていますか?

私は長年、マリ共和国の「中庭」の研究を続けています。1つの中庭に、最大で72人もの人々が暮らす。血縁関係にない人も含め、迷惑をかけ合い、譲り合いながら共に生きているんです。そこでは「適度な迷惑」が社会の潤滑油になっていて、毎日小さなトラブルがあるからこそ、相手を気にかけたり、思いやったりする文化が根づいている。それがとても魅力的でした。

日本でも似たような空間文化があります。京都の町家や鴨川の等間隔現象、打ち水の習慣など、一見目立たない行動の中に人と人との距離感や関係性が現れている。たとえば、打ち水をどこまで撒くかで近所づきあいの濃淡が見えたりするんです。

私はこうした空間の振る舞いを定量的に調査し、コンピューター上で可視化することで「空間が語る関係性」を読み解いてきました。空間は単なる物理的な枠組みではなく、人々の営みと深く結びついている。どのような空間で、どう暮らすか。そこに文化が現れ、コミュニティの未来が見えてくるのだと感じています。

5. 日本の教育や社会において、今後必要とされるものは何だと考えていますか?

私は日本の教育に対して、「子どもたちが自分の声を持つ場が少ない」と感じています。現在の教育はスケジュールがびっしり詰まっていて、ゆっくり周囲を観察したり、自分が何者かを考える余白が足りないように思います。子どもたちに「夢を描いてください」と言うと、初めは戸惑いますが、本音が出るととても深いものが出てくる。それを拾い上げる教育の仕組みが必要です。

また、私は以前テレビに出たとき、「黒人大学生」とテロップが表示されました。悪意はないと思いますが、言葉の選び方ひとつで人の印象は大きく変わります。多様な人が共に生きる社会では、「何をどう伝えるか」というコミュニケーションの感度が非常に大事です。

分断が進む今の社会において、教育が果たすべき役割は大きいと思います。私は“自己紹介”と“他者紹介”を繰り返す授業を行っています。自分が誰で、相手がどんな人かを知ることで、関係性の土台ができる。教育とは単に知識を伝えるだけでなく、「関わり合う力」を育てる場であってほしいと願っています。

6. 最後に、これからの万博や日本社会に対して、どんな期待を抱いていますか?

私は万博を「体験の場」「関係性を編み直す場」にしたいと思っています。展示を見るだけではなく、自らが参加者として空間をつくり、誰かと交わり、共に創ることが大切です。万博会場に設置される「共同館」では、異なる国の人たちが半年間、毎日を共にします。摩擦もあるでしょうが、その中から信頼や共感が生まれると信じています。

特に若い世代にとって、万博は「自分の視野を広げる場所」になってほしい。国境を越えた出会い、文化の交差点としての万博は、単なるイベントではなく“生きた学び”そのものです。私は「コモンズ」という名を冠したこの空間で、ぜひ多くの若者が関係性を体験し、自分の物語を紡いでほしいと思っています。

また、今回の万博では女性や子どもたちの声にもスポットを当てたい。社会の中で見えにくい存在の声を拾い上げる場として、「女性館」のような空間も構想しています。強い声ばかりが目立つのではなく、静かに生きる人たちの想いが届く社会へ。その一歩を、万博から始めたいと考えています。

※本記事の内容は、動画からの抜粋・要約に基づいて作成されています。表現やニュアンスに一部差異が生じる可能性がございますので、正確な情報をご確認いただく際は、ぜひ本編動画をご視聴ください。

イベント概要

日時:2024年8月26日(月)15:00〜16:00
会場:港区立産業振興センター 「HOST TOWN FESTIVAL2024」会場内アート共創ルーム
ウスビ・サコ 氏(公益財団法人2025日本国際博覧会協会 副会長、前京都精華大学学長)
モデレーター:鈴木大輔(株式会社アートローグ 代表取締役CEO、Study:大阪関西国際芸術祭 総合プロデューサー)
参加費:無料
主催:公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会、株式会社アートローグ

プロフィール

ウスビ・サコ(Oussouby SACKO)

公益財団法人2025日本国際博覧会協会 副会長、前京都精華大学学長

鈴木大輔(SUZUKI Daisuke)

1977年11月3日 文化の日生まれ。大阪市立大学都市研究プラザのグローバルCOEに於ける研究プロジェクトを経て起業。2014年グッドデザイン賞受賞、2015年度 京都大学GTEP プログラム(文科省)ファイナリスト、2016年ミライノピッチ(ビジネスコンテスト:総務省近畿総合通信局)においてグローバルイノベーションに値するOIH賞を受賞。2025年の大阪・関西万博を機に世界最大規模の「大阪関西国際芸術祭」を創出することを目指し、2022年より「Study : 大阪関西国際芸術祭」を開催。

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