EXPO PLL Talks
EXPO PLL Talks
Director KAWASE Naomi takes the stage! EXPO PLL Talks
"Art & Impact: Thinking about the Post-Expo World with Innovators" vol.9
The 9th EXPO PLL Talks "Art & Impact: Thinking about the Post-Expo World with Innovators" will feature film director KAWASE Naomi as a guest. Director Kawase has been appointed as the Theme Project Producer and Senior Advisor for the 2025 Osaka-Kansai Expo.
"What have our predecessors left us, the conversation we need to have now, and how do we envision the future that follows?" We asked Director Kawase what message she wants to convey through her film and the Expo.
We will also be talking about the Nara International Film Festival 2024, which will begin on Friday, September 20th. This is a rare opportunity to hear Director Kawase speak up close. Please come along!
映画監督・河瀬直美が語る「生きること、撮ること、育てること」
Q1. カンヌでの鮮烈なデビュー作『萌の朱雀』は、どのように生まれたのですか?
27歳のとき、私は奈良でひとり、自主映画を作り続けていました。専門学校で講師をしながら、年収150万円の中で100万円を貯め、食事も洋服も我慢してすべてをフィルム代に充てていました。外食なんてとんでもない、カツをかけたごはんがごちそうという日々。そんな中で、「誰にも頼らず、でも世界に届く映画を作る」と心に決めていました。そして撮影監督・田村正樹さんが、私の手書きの脚本をWOWOWに持ち込んでくれました。田村さんは私が心から尊敬する、成田空港建設反対闘争などのドキュメンタリーを撮っていた方。その田村さんが「お前の次の作品は俺が撮る」と言ってくれたことが、人生の転機になりました。
資金は約3,000万円。私にとっては「家が建つ金額」。人生で見たことのない大金でしたが、全部映画に注ぎ込みました。完成した『萌の朱雀』は、ロッテルダム国際映画祭に招かれ、そこに居合わせたカンヌのディレクターの目に留まり、カンヌ映画祭の「監督週間」のクロージング作品として正式招待。しかも新人監督賞(カメラ・ドール)を受賞するという出来事が起こりました。
それは本当に突然の出来事で、私自身、カンヌが何かもわかっていなかったほど。千円のセーターから、ドレスに着替え、レッドカーペットを歩くことになったのです。帰りはエコノミーで、膝にトロフィーを抱えて奈良へ戻りました。それが私の、世界との最初の出会いでした。
Q2. 映画監督であり、プロデューサーも自ら担い続けている理由とは?
『もがりの森』を制作するにあたり、私ははじめて本格的にプロデューサー業にも踏み出しました。東京のプロデューサーとの時間感覚や価値観の違いに葛藤があり、「これはもう自分でやるしかない」と腹を括りました。お金を集め、スケジュールを組み、子育てや介護と両立しながら、自分の現実にフィットする形で映画を作っていく。それが私のやり方になりました。プロデューサーをやるというのは、クリエイターとはまったく違う「筋肉」を使う作業です。演出では極限まで突き詰めたい。でもプロデューサーは限られた予算内で「妥協」を選ぶ場面もある。まさに相反する仕事を一人で担ってきました。
だから私はよく「主婦感覚」に例えます。今日300円しかない。でも家族に美味しいご飯を食べさせたい。そうなったら、スーパーを回り、もやしと卵とニラで絶品料理を作るでしょう。映画制作もまさに同じで、限られた資源の中から最大限の価値を引き出す工夫と執念が必要なんです。
実際、ワールドツアーのように世界各国の映画祭を回る日々でも、私は脚本を書き、小説を書き、次の企画の準備を進めていました。休む暇なんて一切ない。それでも、「誰かがこれを見て、自分の生き方を見つけてくれたら」という思いだけでやってこれたのだと思います。
Q3. なぜ奈良という土地にこだわり続けるのですか?
奈良は、私にとって特別な場所です。春日大社の森、興福寺、東大寺、そして平城宮跡——これらはすべて、私が幼少期から遊び場として親しんできた場所。世界遺産が日常にある、そんな土地で育ったことが、私の創作の原点になっています。「そんなことやりたいなら、東京に行かなきゃ」「奈良では文化は育たない」と何度も言われました。でも私は、ここに居続けることに意味があると思っています。養母の介護もありましたし、子育てもありました。移動できない制約の中で、自分の表現を模索する。その苦しさの中でこそ、見えてくるものがあります。
そして、ここでしか撮れない「光」があります。奈良の森の緑、朝の陽の光、鹿と共存する町並み。それはただの景色ではなく、1300年の時を超えて残ってきた「記憶」なのです。私はその記憶をフィルムに焼き付けることで、未来に渡すバトンを手渡しているのだと思います。
だから奈良に映画祭を立ち上げたのも、必然でした。世界の映画人をこの土地に招き、彼らに奈良の空気を感じてもらう。それは日本から世界に向けて、新しい文化発信をすることだと信じています。
Q4. 奈良国際映画祭を始めたきっかけと、その意義について教えてください。
2007年、平城遷都1300年を3年後に控え、「奈良から映画祭を始めたい」と動き始めました。文化庁ではなく、経済産業省の関西局に企画を持ち込み、直談判で立ち上げたのが「奈良国際映画祭」です。第一回の会期は2010年。世界中から若手映画監督を招き、彼らと市民とが直接出会える、まさに「祭り」のような空間をつくりました。映画祭はブランディングの場でもあります。奈良の52段の階段に赤い絨毯を敷いてレッドカーペットにしたのもその一環です。上から下へ降りてくるという演出は、「神様を地上にお連れする」ことをイメージしました。カンヌのレッドカーペットのように、誰もがその場所に価値を見出すような空間にしたかったんです。
資金面では苦労が絶えません。市や県からの支援が議会の都合で突然ゼロになることもありました。それでも市民一人ひとりと対話し、支援企業を口説き、なんとか続けてきました。私が歩いてきた道のりは茨の道でしたが、それでも14年間継続してきたことが、私の誇りです。
今では全国から来場者が訪れ、若手クリエイターが奈良で世界と出会う場となりました。ここから新たな才能が羽ばたいていくこと、それが私の願いです。
Q5. 2025年大阪・関西万博でプロデュースする「Dialogue Theater」とは?
私が万博で手がけるパビリオンは、「Dialogue Theater」という名の“映画館”です。ただし、映像を一方的に観る場所ではありません。古い小学校の校舎を改築し、来場者と語り部が一期一会の対話を交わす、そんな参加型の空間です。中心には、高さ10メートル以上あるイチョウの木を奈良から運び入れます。この木は、実際に子どもたちの声を聞いてきた校庭の記憶を持っています。その“記憶を移築する”という発想が、このパビリオンの核です。
会期後には、校舎も木もどこかの自治体へ寄贈し、未来へ繋ぐことを計画しています。一時的な展示ではなく、循環型のアートとして残していく。そのために、ランドスケープアーティストや建築家と共に、自然と共生する空間を丁寧に作っています。
また現在、「話者」も公募中です。選ばれた方は、私とワークショップを経て、実際に対話の舞台に立ってもらいます。クリエイターでなくても、誰もが表現者になれる。そんな包容力のある場をつくるのが、今回の試みです。
Q6. 河瀬さんがこれから育てたいもの、残したいものとは?
私はこれまで、「生きること」と「表現すること」を重ねて歩んできました。介護をし、子育てをしながら、プロデューサーとして資金を集め、クリエイターとして作品を生み出す。そんな日々を続ける中で感じたのは、「一人では限界がある」ということでした。だから今、私は「共に歩む仲間」を育てたいと思っています。日本には、まだまだ文化を支えるプロデューサーやファンドレイザーが不足しています。映画やアートの価値は“売上”だけでは測れません。心の豊かさを育むものとして、それを支える人材や仕組みが必要なんです。
実際、アメリカのMoMAではファンドレイザーが数百人単位でいます。一方、日本ではそれを兼務する人が片手で足りるほど。だからこそ、私たちは新しい仕組みを作らなければなりません。 映画祭も万博も、ただのイベントではなく「育てる場」。次の世代が表現しやすい環境を残していく。それが、私がこれからやりたいこと。そしてそれが、私自身が映画から学び、生かされたことへの恩返しでもあるんです。
※本記事の内容は、動画からの抜粋・要約に基づいて作成されています。表現やニュアンスに一部差異が生じる可能性がございますので、正確な情報をご確認いただく際は、ぜひ本編動画をご視聴ください。
Event Overview
Date and time: Tuesday, September 17, 2024, 18:30-19:45 (reception opens at 18:00)
Venue: Sakura Room, 1st floor, Hotel Obana (1110 Takabatake-cho, Nara City, Nara Prefecture)
Guest: Director KAWASE Naomi (Film director, Osaka-Kansai Expo Theme Project Producer)
Moderator: SUZUKI Daisuke (CEO of ARTLOGUE Inc., General Producer of Study: Osaka Kansai International Art Festival)
Participation fee: 1,000 yen (tax included)
Capacity: First 40 people
Organized by: Japan Association for the 2025 World Exposition, Osaka Kansai International Arts Festival Executive Committee (within ARTLOGUE Inc.)
For inquiries, please contact: info@artlogue.org (Ishigaki / ARTLOGUE Inc.)
*Please contact ARTLOGUE Inc. for all inquiries.
profile

KAWASE Naomi
A filmmaker based in Nara who continues to create films. Her consistent pursuit of "reality" transcends the realms of documentary and fiction, and has won numerous awards at film festivals around the world. At the Cannes Film Festival, his film "Suzaku (97)" won the Camera d'Or at the youngest age ever, and "The Mourning Forest (07)" won the Grand Prix. Other notable works include "The Second Window," "An," "Light," and "Morning Comes."
In 2010, she launched the Nara International Film Festival, was appointed as the official documentary director of the 2020 Tokyo Olympics, and will serve as a UNESCO Goodwill Ambassador and a producer and senior advisor for the 2025 Osaka-Kansai Expo Theme Project from 2021. In her private life, she grows vegetables and rice. She is currently working on a new film scheduled for release in 2025.
"2025 Osaka Kansai Expo Signature Pavilion produced by KAWASE Naomi"
The Nara International Film Festival 2024 is about to begin! (September 20th - 23rd, 2024)

SUZUKI Daisuke
CEO of ARTLOGUE Inc., General Producer of Study: Osaka Kansai International Art Festival.
Born on Culture Day, November 3, 1977. Founded his own company after participating in a research project at the Global COE of the Urban Research Plaza of Osaka City University. Winner of the Good Design Award in 2014, finalist in the Kyoto University GTEP Program (Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology) in 2015, and winner of the OIH Award for Global Innovation at Miraino Pitch (Business Contest: Ministry of Internal Affairs and Communications Kinki Bureau of Telecommunications) in 2016. Aiming to create the world's largest "Osaka Kansai International Art Festival" on the occasion of the 2025 Osaka-Kansai Expo, "Study: Osaka Kansai International Art Festival" will be held from 2022.
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